【映画レビュー】ゲット・アウト(2017年・米)ネタバレありレビュー・不協和音が明らかにする差別・皮肉に満ちた衝撃サスペンス
2018/08/14
ついにamazonプライム会員限定の無料配信が始まりまった【ゲット・アウト】!
2017年の賞レースを賑わし、最終的にアカデミー賞脚本賞を獲得した話題作です。
低予算ながら口コミで人気が拡大し、日本でも大ヒットしました。
ゲット・アウト(2017年・米)
監督:ジョーダン・ピール
主演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ
【ゲット・アウト】のあらすじ
カメラマンのクリスは、休暇を恋人のローズの実家で過ごすことにする。しかしクリスは自分が黒人であることで引け目を感じている。白人家族に自分が否定されるのではないかと心配なのだ。しかしローズは「父は差別主義者じゃない、オバマが3期目に立候補したら投票する、と言うわ」とクリスを安心させる。
ローズの実家に向かう途中、道路に鹿が飛び出しはねてしまう。死骸を処理してもらうために呼んだ交通警察に免許証の提示を求められるクリス。しかしローズは「はねたのは自分なのだから、クリスに免許を提示させるな」とキレる。そんなローズの態度に感動するクリス。
ローズの実家につくと、クリスは快く迎え入れられる。ローズの父親は「オバマが3期目に立候補したら投票しただろう」と語る。しかし、ローズの自宅には黒人の使用人がおり、様子もおかしい。違和感を感じるクリス。
ローズの母は精神科医で催眠術が得意だという。催眠術で禁煙をすすめられるクリス。一旦は断る。しかし、その夜寝付けないクリスが庭に出てみると、恐ろしい勢いでジョギングする使用人の姿を目撃する。その後部屋に戻ろうとするが、途中でローズの母につかまり、催眠術をかけられてしまう。過去の辛い記憶を無理やり蘇らせ、意識を奥底に沈められる経験をするクリス。凄まじい恐怖を感じるが、目覚めるとベッドの上だった。あれは夢だったのか?と自問自答するクリス。
翌日はローズの祖父の代から続くパーティが行われた。パーティに集まったのは白人ばかり。しかしたった1人黒人ゲストをみつけ、クリスは話しかけてみる。しかしどうも様子がおかしい。黒人らしい振る舞いがまったく見受けられないのだ。しかも、クリスには彼に見覚えがあった。どこであったのか思い出せず、写真を撮ってみると、その人物はいきなり狂ったように「出て行け」とどなりはじめ、襲いかかってくる。
どうやらこの家では不信なことが起こっていると感じたクリスは、自宅に帰ることを決意する。しかし、時はすでに遅かった。クリスは競売にかけられており、盲目の美術商人ジムが彼を競り落としていたのだ。クリスは催眠術によって硬直化させられ、地下室へと閉じ込められることになる。
実はローズの実家は怪しげな秘密結社に属しており、黒人をさらって「凝固法」という謎の催眠で意識を押さえ込み、白人の脳を移植して体を乗っ取るという儀式を行なっていたのだ。使用人やパーティで出会った黒人も「凝固法」によって白人に意識を乗っ取られた犠牲者だったのだ。ローズとその弟は黒人をさらってくる要員でしかなかった。すべてを理解したクリスは脱出する方法を考える。。。
【ゲット・アウト】ネタバレレビュー、解説、考察など
公開当初から内容がものすごいと話題になっていた本作を遅ればせながら視聴した。
確かにこれはもの凄い。
アメリカでの黒人差別が未だ密かに、日常として行われている現状を真っ向から描きつつ、白人が黒人に感じてるねじくれた憧れをも皮肉げに映像化する。
すでに多くの人が知っているように、この映画には実はもう一つのエンディングが存在する。
映画版では「空港保安官である友人がラストに現れクリスは救出される」というものだが、
ブルーレイ版では「警察が現れ、クリスは一連の殺人の容疑で逮捕される」のだ。
もちろん映画版の救出のくだりも面白くよくできている(「だから言ったろ」というセリフは、クリス自身がローズに言った言葉でもある)が、
警察に逮捕されるエンディングのほうが、「結局、割りを食うのは黒人である俺ら」という監督のメッセージ性が強く伝わってきて収まりがいいようにも感じる。
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黒人差別についての映画は数あれど、
現代に残る隠れた差別意識をここまでうまく、しかも面白く描いた作品はないだろう。
登場人物の造形も鮮やかで退屈させない。
空港保安官のロッドも出てくるたびに笑わせてくれる↓↓
電話でのやり取りはアドリブだそう!出てくるたびにほっこりさせてくれるキャラだった。
海外ドラマ【GIRL】でなかなか幸せになれない美人キャラ・マーニーを演じ、人気だったアリソン・ウイリアムもいい。
相変わらず美人だし、サイコパス全開になった時は全く違った容貌になるのが怖い。
狩った獲物(黒人たち)の写真を壁に飾り、次の獲物をネットで探す!美しきサイコキラーの誕生だ。
ちなみに狩猟が趣味、というのはとても共和党主義者的であり、この映画全体が共和党(トランプ政権)批判になっているのも面白いポイント。
ローズの父がオバマ(民主党)に投票すると言いつつ、鹿をもっと殺せ!と楽しげなのは、それだけでかなりの違和感のあるシーン。
音楽についてもそうだが、作品全体に鳴り響く「不協和音」こそが、この映画の魅力になっている。
ゾワゾワと感じる違和感。
映画でその謎が解けた時、私たちはリアル世界の奥底に鳴り響く不協和音にも気づかなければならない。
精神を不安定にさせる不穏な音楽の正体は?
この映画の魅力の一つは、音楽にある。
不協和音、聞きなれない言語、不可解な歌詞によって構成された音楽は聞くものの精神を不安定にさせる。
それに映画のどこか違和感を感じる映像がオーバーラップして、一刻も早くここを出たい!と感じるような居心地の悪い世界観ができあがるのだ。
音楽を手がけたのはマイケル・エイブルスというアメリカの作曲家。
オーケストラ専門の作曲家らしいが、監督のジョーダン・ピールが熱心に説得して映画の音楽を担当してもらったようだ。
オープニングはスワヒリ語で歌われる「Sikiliza Kwa Wahenga」という曲。
謎めいたメロディーとスワヒリ語の歌詞が何か予測不能なことが起こりそうな雰囲気を感じさせ、ゾクゾクする。
ちなみに歌詞は、「ブラザー、逃げろ、忠告を聞け、真実に耳をすませ。逃げ出せ。自分の身を守るんだ」と映画の内容を示唆している。
続編もある?【ゲット・アウト2】はいつ公開?
監督のジョーダン・ピールは【ゲット・アウト】の続編についてインタビューで聞かれた時に、その可能性はあると答えている。
まだ語りたいことがある、とのこと。
ただしまだ制作段階ではないらしく、公開も未定だ。
【ゲット・アウト】の完成度が高いため、続編が蛇足にならなければ良いが...と少し不安だが、
処女作でこれだけの技量を見せてくれた監督の次回作、期待して待ってもガッカリはしないかもしれない!